空間としての図膏館〜世界の図番館散歩<7>�〜 今井秀明


 キラキラと輝く太陽の光,澄んだ大気にその光が反射するかのように,さらにその輝きが増す。風によって左右に揺れる木々,

周辺の景観,歴史との対話などの連続は常にその建築されるものにとって重要な課題であった。 図書館は特にその機能から

公共性の強いものであり,象徴性のある形態が導かれ,周辺に対し調和よりも逆に影響を与える。

 情報サービスの拡大は,日進するテクノロジーに対応するシステムを取り込むことで素早く計られ,インターネットとバーチ

ャルリアリティを使って情報を早く別の場所で疑似体験することを可能にする。 

 この様な目に見えない機能やセミラチス的に張りめぐらした空間が集約されて目に見える形態がつくられてくる。 

 20世紀を足早に通りすぎて21世紀に向かい図書館の機能面,空間面,形態面などで大きく方向を換える動きが現れてきた。
 
 フランスでは1980年代に入って図書館の情報センター化を大幅に改組し,推進し,メディアックというかたちにして,書物

以外にレコード,コンパクトディスク,ビデオフィルム,マイクロフィルムなどを保有している。メディアックはさらにいろい

ろな別の機能を持つものと合体され今までとは違う形態が生まれてきた。 

 そこには今までに存在した「知の象徴」を持った強い象徴的形態から穏やかな象徴性を表現した形態がつくり出される様になる。

 その穏やかさはデジタルに直接形態を求めず,その対立極のアナログへのアプローチとなり,その場の原風景をもう一度取り戻

したり,風や光をより身近に感じさせて人間中心の形をつくろうとする。それは実体のない情報に対する形への対応である。 

<カレ・ダール>
          

南仏プロヴァンス地方リョンから南へ下り,アヴィニョンとモンペリエの中間に位置する二一ムの町。その中心に位置する場所に

建つ歴史的建造物で古代ローマで最も美しい神殿の一つとして数えられる「メゾン・カレ」。 その真横にフランスが進めるメディアを

中心に据えた「メディアック」という新しい情報センターとして図書館と現代美術館が複合された施設が建っている。

 国際的に知名度のある12名の建築家の中から,イギリスの建築家、ノーマン・フォスターの案が採用された。

 彼は香港上海銀行で「ハィテック」という技術に裏付けられたダィナミックな建物を造って20世紀後半の潮流の一つを築き上げた。
 
 彼はこの歴史的遺産に対持して,周辺の環境,歴史的なヴォキャブラリー,メディアックを中心しに展開する目に見えない情報という

機能の形等の考えをこの建物に入れて,この「カレ・ダール」をつくりあげた。 

 ニ一ムの町並みへの配慮から,高さは周辺にあわせるように抑えて,建物のかなりの部分を地下に収め,地上館を美術館に地下をメディ

アックとして配置させている。 

 中央に大きな吹き抜けホールを持ち,これらから自然光を十分に採り入れ明るく開放的な空間をつくっている。 「メゾン・カレ」を

分析し,それがもつ形態的な比例やシルェットから,大きさやそのブロポーションが決定されている。

 それは,この歴史的街区や建物のもつリズムをとぎれさせないように計られ,現代の技術によって 創造された建物を未来に向かう軸と,

古代の歴史軸をつなぐ要になる位置づけがなされている。その軸はまるで現代空間を飛び交う情報のようであり,この建物はこれらのメ

ディアとなる場である。

 ルーバーでコントロールされた南仏の強い光は,穏やかな光となって,建物の必要なところに行きわたる。この光は歴史的な建物があつ

かった象徴や威厳をもったものよりも人間と環境を近づけるやさしさである。

  空や樹木,周辺の町並み,光等が入り込む穏やかに広がる半地下にある閲覧室は,メディアという実体のないハードなものと人間のもつ

精神,感情等のソフトなものを結ぶある現実的な空間の一つである。
<国立国会図書館関西館(仮称)>
 

 この図書館は増大する多くの情報を多極化していく構想を中心にしてその多くの情報や資料を幅広く人々にコンピューターネットワークを

通していろいろな場所からアプローチできる機能を備えた電子図書館として考えられている。 

 この建物は,環境と透明性をキーワードにして穏やかな象徴性をつくりあげると同時に,この場所の以前の風景を取り戻そうとしている。

 この建物が建つ関西文化学術研究都市は周辺に緑豊かな丘陵が残る一方,開発でそれら自然環境がなくなりつつある場所である。南上がりの

敷地奥にはこの丘陵が残っており,これらの雑木林への連続性を強く意識した建物になっている。

 雑木林を原風景にこの建物の多くを地中に埋めてその連続性を保とうとしている。 地下の書庫,半地下に大空間の総合開架閲覧室,地上に

研究管理諸室を配置し,それらの中心にかつてこの場所にあったと思われる雑木林の風景を入れ込み,サンクンガーデンとして据えてこの建物

のどの部分からも眺めることを可能にしている。

 正面、大通りから小路をイメージさせるアプローチをまっすぐに入り,閲覧室屋上の人口の丘陵地として緑化された間を通り抜け,半地下にあ

る切り取られたかつての雑木林を下に見ながらこの建物にはいる。
 
 これら連続する緑はこの丘陵の持つ豊かな広がりを体現し,一人一人が持つ原体験が中心になり,この電子図書館が計画されている。
 
 建物は単純な直方体の形と,ガラススクリーンで透明性を強調することで,実体のないメディアや図書機能への融通性と象徴性を表現している。

 この透明性はいろいろな形で採り入れられる光や,雑木林の緑などにより豊かな空間がつくられる。 それらの空間は,ここを利用する人々が

常に自然の中で高度な情報をあつかうことができる図書館としての新たな姿をつくりだす。 

 高度な情報社会に対応する機能は,近代以降つくりあげた人間不在の空間を助長する。 資料や情報が増大し巨大化する図書館が多くのメディァを

使い電子図書館として形をかえてゆく時に,空洞化し,機械中心主義になり,精神を置き忘れた人間不在の場になる危険性がある。 

 この建物はその不在感に対して,人間個人の持つ原風景や原体験,自然環境,それも単につくられた庭園と言うよりはこの場に存在した雑木林、

この場の固有の光,風といったプリミティブなものを媒体にして再度とりもどそうと試みている。 (建築家・日本大学講師)