『成瀬仁蔵著作集』の事項索引について (真橋美智子)


 『成瀬仁蔵著作集』全三巻は,1974年から1981年にかけて刊行された。著作集には成瀬仁蔵先生

の著書, 論文,講演,その他の著作のほとんどが年代順に収録された。その結果,第一巻が674頁,

第二巻が1216頁, 第三巻1113頁と大部な著作集となった。当初より著作集には索引を附すことが

予定されていたが,各巻ともに 大部になったこと,刊行に予想以上に年数がかかったことで別冊にす

る方向で著作集のみが先に出版されたが,索引は刊行されないまま10年余が過ぎてしまった。 

 その後,著作集の編集にかかわった女子教育研究所が閉所されることが決まり,とにかく閉所までに

索引をまとめることになった。まず,人名索引を未定稿ながら1993年6月に印刷に付し,引き続き本

学学生・卒業生の協力も得て,1995年2月に事項索引が刊行された。

 『成瀬仁蔵著作集』事項索引は各巻ごとの索引となった。著作が1881(明冶14)年から1919(大

正8)年までと長期にわたっており,各巻ごとに重要と思われる事項が少しずつ異なったためである。

何度も検討を重ね,第一巻では140の事項(小項目を除く),第二巻では284の事項,第三巻では

293の事項を取り上げた。

 第一巻には成瀬先生が日本女子大学校を創立されるまでの著作,『婦女子の職務』や『女子教育』など

が収録されている。一巻では当然のことながら女子教育・高等女子教育関連事項が多いが,男子教育や

男女混合教育、欧米の女子教育などにも言及されており,広い視野で女子の教育が検討されたことが事

項からもうかがえる。 また体操・体育およびその関連事項の多さが注目される。例えば瑞典・独逸・

英国・米国・デルサート式の体操や治療体操なども取り上げられており,女子の身体の健康・発達を

重視された成瀬先生の体育への関心の強さ,広さ,女子教育への導入の強い意志がうかがえる。その他

に家庭教育や社会教育さらには国民・社会・智識・家庭などの項目も多い。  

 第二巻には日本女子大学校創立から明冶44年度までの著作,『進歩と教育』などが収録されている。

女子教育,女子高等教育,女子大学(校)関係以外で頻度が多い項目は,世界・国家・国民や精神・思

想・宗教・理想・生 命,品性・人格・生涯,知(智)識・研究・進歩・発達などである。一方,第一

回生の卒業と同時に組織された桜楓会についての記述や日本女子大学教育の一つの重要な柱でもあった

寮教育に関連して,寮(舎・生)・寮監などの記述も多くみられる。さらに,今日盛んになった生涯教

育の考え方を成瀬先生は早い時期から示されているが,二巻では「大学拡張」についても度々論じられ

ている。

 第三巻には明治45年から大正8年,先生が亡くなるまでの著作,『新時代の教育』や『新婦人訓』

『女子教育改善意見』などが収録されている。三巻で頻度がずば抜けて多い項目は人格・精神で,以下,

国家・宗教・思想・ 意志・国民・理想・研究・進歩・生命・文明・信念・個人・自己・発達の順に多

い。一方,数はそれ程多くないが, 先生の帰一思想を知る手掛かりともなる帰一.帰一協会に関する

事項もみられる。

 以上のように,全巻を通じて女子教育関係の項目は勿論であるが,国民・知(智)識などが多いとい

う共通点はあるものの,第一巻は他の二巻に比べて独自性がみられる。二巻と三巻では,国家や研究・

進歩・発達,人格などの他に,精神・宗教・思想・生命といった人間の内奥に踏込んだ項目の多さで

共通点がみられる一方で,二巻では 「精神」がずぱ抜けて多く,世界・生涯・品性なども多く,三巻

では「人格」が最も多く,信念・自己・個人も多いなど,それぞれ特徴がある。

 本事項索引では,頻度の非常に多い事項もあり,項目抽出の困難さ,索引項目のもつ限界を認識させ

られた。しかしながら,成瀬先生の思想,宗教,教育,社会的活動などを知る上で著作集が最も重要な

資料である。著作集がより多くの方々に繙かれるためにも本事項索引が手引きとなり,生かされること

を期待している。 (教育学科助教授)