文化財の虫菌害保存対策研修会に参加して(赤塚 愛子)


 文化財を利用しつつ後世に伝えて行くためにはどのような条件で管理運営が行なわれるべきか。酸性紙,

酸性雨を含む大気汚染は広く認識されているが,文化財の被害の60%は虫菌害である。(菌とは徽で

ある)それらに対応する保存環境の一般的条件としては,温度:20度,湿度55〜60%,空気:空気

汚染は0,通常の炭酸ガス,酸素もない方が良い。照度:耐光性に応じて300〜100ルクス,光源に

よって熱が出るのでクールビーム等を使用する。このような環境を保ちつつ,害虫に対する防除対策と

して,定期的掃除,防虫剤の利用,建物本体の防虫処理,害虫駆除等を行う。また,保存の際も空間の

2割のあきを取り,建材による汚染(コンクリート,木のやに)に注意し,ほこりをまめに取る。場所を

移す時には,環境変化の少ない事が重要であり,環境差5%内外が望ましく,差が大きい時は,除々に

環境を変える。作業時期も重要で,4,5月は最低,梅雨から台風時期にかけても悪いのでさける。簡単な

説明は以上である。文化財を守るというのは大変なことなのである。その最も身近かな例が,正倉院と

その御物であろう。コレクションは美術品としての価値のみならず,そのコンディションの良さも,かの

時代を生々と伝える重要なポイントである。映像等で紹介される保存システムの歴史的厳重さは,更に

印象の強いものであるが,それらのシステムは先にあげた科学的条件に当てはまることがわかり,連綿と

統けられた作業に対する感動はより高まるのである。自然風土に対応した保存システムは,その行為自体が,

守られてきた文化財と共に文化となっている。文化財を伝えるために,自然風土の中で人間が工夫する行為が,

虫菌害対策を始めとする文化財保護である。文化を後世に伝えるために努力することが文化であるとすれぱ,

虫菌害対策は,そのキーポイントである。虫菌害対策に対する関心は,すなわち,文化に対する関心であり,

文化程度のバロメーターともなるわけである。(館員・西生田図書館)