追想

相馬文子

 太平洋戦争終結の昭和二十年(1945年)l1月が私の図書館初就任であった。以来,定年を数年前にして,

昭和五十七年(1982)春,退職した。女子大の図書館の歩みについては,自著「司書半生」にかなり詳細に

述べたつもりであるが,私の在任は,図書室と言った前近代的な箇所から,創立以来初めて独立した建物の全

開架式図書館と極端な移り変りを過して来た三十七年間であった。そして,退職後の才月が,も早十五年余に

なる。新築時に発刊した「図書館だより」が百号になると言う。改めて思い出せば,無論,思い出は限りなく

あって筆舌につくし難い。良き思い出,なつかしい思い出と共に,思い出したくない思い出もあるのは当然だ

が,不思議なもので,月日と共になつかしい事のみ鮮明に心に残って来ている。星移り,人変り,しかもその

後の世の激変も甚しく,それにつれて図書館の機能自体も,私の在任中とは大きく変化している。しかし,

明け暮れ,書物に接し得ていた幸せを現在のエネルギーの賜ものにさせていただいている事に感謝している。

(元図書館事務主任)