大学生活と図書館(図書館だより第50号巻頭言再録)
青木生子
現在の図書館の建物は,日本女子大学の創立60周年記念事業のひとつとして出来上った。初めて独立した
図書館が出来上ったとき,私は本学が真に大学らしいものになった喜びを強くいだいたことを,今でも忘れら
れない。しかも,全国で最も新式の図書館として開館されたことは,本学にいる私どもにとり,何よりの誇り
であった。
以来,大学図書館の機能が十分に発揮されながら,あれからいつしかもう創立80周年を迎える時になった。
感慨がひとしお新たである。大学の心臓部は,何といっても図書館である。大学生活の生き生きした働きは,
学生にとっても教師にとっても,図書館にあると言えよう。
私の大学生活の想出は,図書館を抜きにしてはない。戦前の東北帝大に入学した私は,当時の図書館長で
あった小宮豊隆先生が,「広瀬川の流れる,森の都のこの大学は,日本のハイデルベルヒ」といわれた一言に,
すこぶる満足して,私の大学生活は図書館に入り浸りであった。私の青春時代の思索には,あの図書館の窓越し
に聞えてくるカッコーのこだまが織りまじっているかのようである。夜の12時に閉館となり,帰り道,教授
の研究室の建物を見上げると,明か明かと灯がついているのに,無言の刺戟を受けたものだった。
本学の学生にとって,図書館はどのような重みをもっているのだろうか。先日,夕方7時近くに図書館へいっ
たら,ほとんど学生がいなかった。時期によるかと思うが,閑散とした図書館は,何やらわびしかった。じつは
私も近頃多忙にかまけて,図書館に出入りすることが少くなったので,いっそうにさびしく思われたのかもしれ
ない。
自分らしいものを失わずにいるために,私は図書館とのつき合いを取り戻していきたい。学生との無言の交流
と刺戟が,もっともっと図書館という場で広げられてゆきたいものである。
玄関ホールの展示など毎回私はたのしみに見ている。今回の80周年記念にちなんで,女子大創立までの要を
えた年譜や,大隅重信,津田梅子らの成瀬先生宛の書簡や,成瀬先生の遺品など,まことに興味深い。そして
第50号に及ぶという『図書館だより』も,いつも行き届いた日本女子大らしさを示してくれている。このよう
な本学の図書館を,学園こぞって愛し育ててゆくことが,本物の母校愛に連なるものだと,私は信じている。
(第9代学長)