図書館の思い出
阿蘇瑞枝
七年間専任として勤務させていただいた間に,たくさんの思い出を作っていただきましたが,図書館にまつわる思い出も
少なくありません。遅くなって少しでも早くとエレベーターの前にかけつけて図書を移動中の館員さんと鉢合わせして先を
譲っていただいたことも申し訳ない思い出のひとつです。着任した初年度に図書委員になったのも忘れられない思い出です。
実は,それまで図書委員の経験がなく,文献に対する豊富な知識と経験のある人だけがなれる委員という思いこみがあり,
図書委員に尊敬と同時に憧れすら抱いていたのが,当時の私でした。ですからとても感激して,この機会に大いに勉強して
図書の世界に通暁したいと大それた望みを持ったりした記憶もあります。実を結ばないまま終わってしまったのは恥ずかしい
ことです。私の個人的経験から申しますと,図書館に頻繁に通い多くの文献を調べて書いた論文は,できがよかったように
思います。この七年間に限っても,本学の図書館をはじめ,国会図書館,国文学研究資料館など,図書館にはとてもお世話
になりました。
大学院に入学したばかりのころですが,先輩・友人達と万葉集の古注釈を集めた叢書を作る計画があり,それぞれが分担
した古注釈を手書きで書写する必要があって,国会図書館に通いました。現在の赤坂離宮が国会図書館として開館されて
いた時期です。建物の内部の様子は殆ど覚えていませんが,夕方建物を出て門を出るまでの間の充実した気分だけはよく
覚えています。機械によるコピーなど考えつきもしなかった当時のことで,古注釈叢書の計画は挫折してしまいましたが,
その後の,図書館を中心とする研究環境の進歩発展のめざましさには,感謝のほかありません。
百周年を前に,本学の図書館の一層の充実をお祈りいたします。(日本文学科教授)