情報提供施設めぐり:世田谷文学館 (阿部佳菜)
世田谷文学館は、世田谷ゆかりの文学者のコレクションを集めた、オープンして1年余りの
モダンでアットホームな文学館である。皆さんは世田谷ゆかりの文学者ときいてどのような作家・
詩人を連想するだろうか。
萩原朔太郎、斎藤茂吉、坂口安吾、井上靖、横光利一、横溝正史、小栗虫太郎、古行淳之介、
武者小路実篤、大宅壮一、安岡章太郎、平塚らいてう、中村汀女、野上弥生子、大江健三郎……
(現在に至るまで世田谷にはざっと1000人程の文学者が居住したそうである。)
2階の常設展示フロアーでは、それぞれの作家の初版本や書簡、遺品、写真などが簡単な年表と共に
展示されている。柳田国男の語彙採集カード。賀川豊彦の挿画。斎藤茂吉・北杜夫親子の写真。横光
利一から林芙芙子に宛てた書簡。平塚らいてうの夫、博史作製の指輪。鴎外の娘、森茉莉が愛用した
アクセサリーやぬいぐるみ。オリンピックにも出場した田中英光に関する品々。
この他、中村汀女が俳句をうたいつづけた自宅書斎の再現もされており、文机、文房具、自ら俳句を
書き入れた掛軸、着物など汀女が日常で使っていたものをそのままに展示している。また横溝正史コー
ナーには自宅書庫を模してつくられた書棚がある。その中には遺族の方より寄贈されたという横溝のコ
レクションが納められている。
以上はほんの一例で、他にも坂口安吾、井上靖、荻原朔太郎、石坂洋次郎、大江健三郎など世田谷ゆか
りの文学者の展示品がある。
ビデオブースでは、右に挙げたような世田谷区製作の文学関係のビデオも用意されている。
■文化人記録映画■
中村汀女�井上靖�大林清�野上弥生子�江間章子�安岡章太郎�杉森久英�横溝正史�水上勉
■風は世田谷■ �
文学の街角-林芙美子と壷井 栄の住んだ街 �文学の街角-坂口安吾と子どもたち
文学の街角-世田谷を詠んだ北原白秋 �文学の街角-徳富蘆花が愛した田園生活
文学の街角-竹久夢二と少年山荘 �文化をたずねて-世田谷文学小話(賀川、蘆花、柳田)
せたがや歴史探訪-平塚らいてうと高群逸枝 �大宅壮一文庫 �ウルトラマンの生まれたまち
「ムットーニのからくり劇場」というからくり箱も実におもしろい。50cm四方の箱の中だけでおは
なしが繰り広げられる幻想的な作品である。
からくり箱は3つあり、荻原朔太郎『猫町』、海野十三『月世界探険記』、中島敦『山月記』、にそれ
ぞれ題材をとっている。3分間程の短い作品だが、これだけは実際に見ないとその不思議な余韻をお伝
えできない。
最後にライブラリーを紹介しよう。世田谷ゆかり作家の全集、作家研究書の他、貴重資料の初版本、
直筆原稿も収蔵されている。閲覧には申し込みが必要である。3階収蔵庫にある初版本は、申し込みを
したその日に見ることができる。また特別収蔵庫に保管してある直筆原稿は、申し込みをしてから1週
間後に閲覧できるかどうかの返答があり、閲覧可能の場合は特別閲覧コーナーで直接見ることができる。
収蔵されている直筆原稿の一例を挙げておくと、横溝正史、小粟虫太郎、平塚らいてう、平林たい子、
長谷川時雨、横光利一、斎藤茂古、北杜夫、伊藤整、森茉莉などである。他に映画のビデオも揃っている。
ここのライブラリーは利用資格に制限はなく、誰でも利用できる。
利用時間は10時一6時。貸出は不可。コピーサービス可。筆記用具は鉛筆のみ可。
さて、一通り展示を見てまわったら、1階の喫茶「どんぐり」で一休みするのもいいだろう。山いも入
パンケーキが楽しめるとのこと。この他にも世田谷文学館では企画展示を随時行っている。ちなみに10月
〜11月は「青踏と女人芸術」の企画展であった。また子供のためのおはなし会、16ミリ映写会や演奏
会なども催され大人から子供まで楽しめる。文学研究の立場から、博物館学芸員を目指す立場から、ある
いは文学散歩に、ぜひ一度世田谷文学館で香り豊かな文学の実りをおもいきり味わってみてはいかがですか。
(館員・閲覧係)