図書館に想う (高木京子 )


 図書館の前に沈丁咲く頃は恋も試験も苦しかりにき(吉野秀雄) 今年も図書館の前の沈丁花が咲く頃となった。

 学生は既に試験から開放され校内はひっそりと静まる。新学期の華やぎの前,沈丁花の香りに包まれる安堵の時も

私にとっては今年が最後となる。

 昭和39年図書館開館の年に就職し,爾来ひたすら図書館業務に打ち興じその余りの面白さについつい長居をして

しまったが,この3月私は32年余の図書館ぐらしに終止符を打つ。 

 開館当初のゆったりとした館内の風景を思い浮かべると,現在の満杯の書架とそして何よりもコンピュータによる

検索コーナーの出現は当時は想像だに出来なかった光景で,十年一日の如き図書館業務にもやはり時代の波は押し寄せ,

30年の歳月は確実に流れていたのだと今しみじみと思う。 

 図書館に職を得た私の最大の収穫は本を見る眼を養ってもらったことであろう。そして時機を逸せず、のちのちも

資料的価値を有する資料を選書することの大切さを教えられた。 

 先日もある非常勤の先生がおいでになり,方々探したが何処にも見つからない,もしかして日本女子大学ならお持ちでは

ないかと本のお尋ねがあった。検索するとすぐに見つかり図書も健在であった。 開館前年発行の図書よくぞ選書しておい

て下さったと先人の目の確かさを思う。

 インターネットで情報収集や相互利用が可能な世の中とはいえ,図書館の価値はやはり継続的な資料の蓄積であろう。

しかも選書の成果は後年評価される。 

 その資料も現状の書架スペースには収まりきらず,刊年の古いものは倉庫委託となりつつある。 

 古書店探訪の如き楽しい発見のある本学図書館が私は好きなのだが,今やそれも贅沢というべきか。
 
 職場の愉快な仲間に囲まれ、好きな場所で好きな仕事を続けられたことを心より感謝する。 皆さんありがとう、

ごきげんよう。(館員・閲覧係)